お子さんに「いつ、どんな習い事をさせると良いんだろう?」という疑問は、子をもつ親なら誰でも感じることかもしれません。
また、成長してからの学習塾や受験のためにお金がかかるから、子供が小さい今は節約して・・・、と思う方もいらっしゃるかと思います。
ですが、最近の研究では、幼児期に投資をした方がリターンが大きいという調査結果が出ているそうです。
「学校にあがってからでは手遅れだ」とまでは言いませんが、教育で同じお金を使うなら、幼児期に使う方が投資効果が高いといことになリます。
この調査結果と幼児期にどのような教育をするのがいいのか、について考えてみたいと思います。
目次
教育を経済活動としてとらえる
教育を経済活動としてとらえると、教育は、子供の将来に向けた「投資」として解釈できるとする考え方があります。
「投資」であれば、株や債券などと同じようにその「収益率」を気にすることは自然なこと。
子供自身の将来の収入は、自立した生活を送るためには大変重要です。
現在の教育経済学では、最も収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の教育、いわゆる幼児期の教育だと言われています。
これは、ほとんどの経済学者の中で一致した見解になっているそうです。
ヘックマン教授らの調査結果
図は2000年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマン教授らの著書で用いられた、人的資本投資の収益率を年齢別に表したものです。縦軸が人的資本投資の収益率、横軸がこどもの年齢を表しています。
図から明らかなように、人的資本の収益率は、子どもの年齢が小さいうちほど高いことがわかります。
このようなデータに基づき、特に貧困層に対する幼児教育に資源を投入する政策を積極的に取り入れている国もあります。
ペリー幼稚園プログラムの結果
ヘックマン教授らは、ミシガン州のペリー幼稚園で実施された「ペリー幼稚園プログラム」と呼ばれる就学前教育プログラムに注目しました。
これは、低所得のアフリカ系米国人の3~4歳の子供たちに「質の高い就学前教育」を提供することを目的に行われたものです。
このプログラムに入園を許可された58人の子ども(=処置群)と入園できなかった子ども(=対照群)を卒園後も約40年間追跡し、どのような差が生まれたかを調べました。
6歳時点でのIQ、高校卒業率、27歳時点での持ち家率、40歳時点での所得は、いずれも処置群の方が高く、40歳時点での逮捕率は、対照群の方が高いという結果となりました。
処置群の子どもたちは、入学時点でのIQが高かっただけでなく、その後の人生において学歴が高く、経済的な環境が安定しており、反社会的な行為に及んだり生活保護を受ける確率も低かったのです。
これは単に教育を受けた本人のみならず、社会全体にとっても、良い影響をもたらしました。
こうした社会全体への好影響を「社会収益率」として推計したヘックマン教授らによると、ペリー幼稚園プログラムの社会収益率は、年率7~10%にも上ると指摘されています。
これは、4歳の時に投資した100円が、65歳の時に6000円から3万円ほどになって社会に還元されているということです。
子供の将来の年収が高いということだけでなく、犯罪や薬物などに依存せず健康的に生活をしている、ということも収益としてとても価値のあることです。
認知能力と非認知能力
IQや学力テストで計測される能力のことを一般に「認知能力」といいます。
ペリー幼稚園プログラムで上昇した学力は、実は短期的なもので、IQの差は小学校入学(6歳)とともに小さくなり、ついに8歳前後で差がなくなってしまいました。
ペリー幼稚園プログラムによって真に改善されたのは、「非認知能力」です。非認知能力とは、一般に「生きる力」と言われるようなもので、「社会性がある」、「忍耐力がある」、「意欲的である」といった人間の気質や性格的な特徴のようなものを指します。
ヘックマン教授らは、学力テストでは計測することができない非認知能力が、人生の成功に置いてきわめて重要であることを強調しています。
また、誠実さ、忍耐強さ、社交性、好奇心の強さといった非認知能力は、「人から学び獲得するもの」であるとも主張しています。
どんなに勉強ができても、自己管理ができず、やる気がなくて、誠実さに欠け、コミュニケーション能力が低い人が、社会で活躍できるはずがないですよね。
質の高い幼児教育とは?
では、非認知能力を高めるような幼児教育とは、どのようなものでしょうか?
ペリー幼稚園プログラムでは、子ども6人に修士号以上の学位をもつ児童心理学の専門家一人が先生となり、午前中に2.5時間の読み書きや歌などのレッスンを週に5日・2年間受講し、毎週1.5時間の家庭訪問を行ったそうです。
教育経済学者の中室牧子氏によると、著書「学力の経済学」の中で、非認知能力の中でも重要な「自制心」と「やり抜く力」を伸ばすには、以下の二つことが有効だと書かれています。
・計画を立てて記録し、達成度を自分で管理する
お家でも例えば、「外から帰ったら手洗いうがいをすること」を毎日の習慣にするために、できた日には子供が自身でカレンダーにシールを貼る、1ケ月続いたら大きなシールを貼れる、といったことから始められそうです。
・自分のもともとの能力は生まれつきのもではなく、努力によって後天的に伸ばす事が出来ると信じる
親や教師から定期的にこのようなメッセージを伝えられた子供たちは、やり抜く力が強くなり、その結果成績も改善した、という研究データがあるそうです。
また、嘘をついてはいけない、他人に親切にする、ルールを守る、勉強をするなどの、しつけを親から教わった人は年収が高いとも書かれています。
幼児期は普段の生活で土台作りをしっかり
このようにみると、ほとんどの子供が幼稚園や保育園に通う日本では、それに加えて必ずしも何かを習わせる必要はないようにも感じます。
ヘックマン教授の言うように普段の生活や遊びを通して親やお友達との関わりから、非認知能力を高めることができるのではないでしょうか?
自然に触れる遊びや家のお手伝いなどは五感が磨かれ、やり抜くための体力や、知的好奇心、コミュニケーション能力、ルールを守る、など基礎的な力を育むのにピッタリです。
子供の意思を確認しながら
普段の生活でも、子供が「やりたい」と言って始めたことを、たとえ途中でうまくいかないことがあっても最後まであきらめずに続けさせること、周りの大人がその努力を認めること、など非認知能力を高めることを意識することで、お子さんとの接し方も変わってきそうです。
その上で、「視野を広げる」、「お子さんの長所を伸ばす」、「お子さんが興味を持ちそう」な習い事を本人が体験して、「やってみたい!」ということなら、価値のある習い事になるような気がします。
そして、お子さんが本当に続けたいと思っているのか(親がさせたいだけになっていないか?)、どこまでできるようになりたいのか、などについて定期的にお子さんの意思を確認しながら、大切な幼児期を過ごさせてあげたいですね。
おすすめ本
参考文献:
『一流の育て方』 ムーギー・キム、ミセス・パンプキン(ダイヤモンド社)
『「学力」の経済学』 中室牧子(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
『幼児教育の経済学』 ジェームズ・J・ヘックマン(東洋経済新聞社)
パンダのパパ日記 https://ameblo.jp/papa-panda-muro/entry-12320507674.html
ハッピーライフスタイル https://happy-lifestyle.hateblo.jp/entry/2017/04/13/193000
東洋経済オンライン https://toyokeizai.net/articles/-/118068
Kid Academy https://kid-academy.jp/column/228/