語学力を付けるのに、ただ語学を「勉強する」以上に効果的な方法があるのをご存知ですか?
それは、目標を達成するために、そのツールとして語学を使うことです。
ただ語学留学をした人よりも、海外で会計学を学んで資格を取りたい、本場のアートを学びたいといったような具体的な目標を持って留学している人の方が、実際に使える語学力をつけていると言います。
語学のみを学習しようと思うと、文法や言葉の構造についての勉強が中心になってしまいがちです。しかし、目標を持って言語を使用していれば、そのために必要な言い回しや表現が自然と身につけられます。
目標に向かっているので、モチベーションも保ちやすいですね。
では、そういった目標やモチベーションを利用した学習法はないのでしょうか。
実は、実際に目標やタスクを使った教育法を実践している国があります。
それは、多言語国家であるベルギーです。国家をあげて取り組んでいるのが「タスク中心教授法」です。
一体どんな教育法なのでしょうか?ベルギーの最新言語教育に迫ります!
タスク中心教授法ってなに?
まずその教育法で重要な「タスク」について説明します。
日本語で言うと、任務や課題といったところでしょうか。
まずは文法説明ありきの講義やフレーズを繰り返す練習にフォーカスするのではなく、言語を「使用」して、「課題を遂行」することを目的とします。
タスクに基づく言語指導法の最大の特徴は、学習者に達成させるべき課題(タスク)を与え、言語を「学習対象」ではなく、課題達成に必須な道具として経験的に使用することを学習者に求めることにある。従って、タスクの評価はその課題がどの程度達成されたかによって行われ、発話の正確さよりも重視される。
wikipediaより引用
タスク中心教授法の具体例
私は第二言語習得の良い例として、よくテニスの錦織圭選手を挙げさせてもらっています。
英語力の高さに定評のある錦織選手ですが、彼は英語を話したいから13歳の時に単身アメリカに渡ったわけではありませんね。
彼にとってのタスクは「テニスを上達させること」で、英語はその手段の一つであったに過ぎません。達成するべきなのは、あくまでテニスで世界を相手に戦うことです。
要するに、この場合は「テニスを上達させること」がタスク(課題)になっています。
人は「英語を話せるようになる」ために学ぶよりも、どうしても達成したい目標があってそのために「英語を利用する」となると、意外と話せるようになるものです。
錦織選手のような壮大なタスクでなくても、言語を必要とする小さなタスクは日常生活にあふれています。
好きな映画を原語で理解したい、買い物をスムーズにしたい、違う言語を話すお友達がほしい・・などなど。
そういったタスクを実際におこなう中で言語を学ぶのが「タスク中心教授法」なのです。
具体的なタスク中心教授法
では、それを授業として実行するにはどうすれば良いのでしょうか。
わかりやすい例で、「ショッピングタスク」を使って説明します。
日本の昔ながらの授業風景であれば、ショッピングをタスクとした英語学習をするなら、次のような手順が一般的ではないでしょうか。
- 役割を決める。(店員さんとお客さんなど)
- 教師が使う文型や言い回しを指示する。(Can I have an apple?など)
- 買うものなどのリストをあらかじめ渡す。(apple, orange, flour, egg…など)
- 決められたフレーズを使いながらショッピングのロールプレイをする
こういった感じで授業は進められます。
しかし、これではあらかじめ与えられた内容を使って、決められたフレーズを繰り返し練習をしているだけに過ぎません。
これをタスク教授法にするには、、、
- パーティを企画する
- 作る料理を決める
- 必要な材料を話しあう
- 実際に買い物をする→クラスの中で難しい場合は、ロールプレイ形式など臨機応変に
こういったやりとりを、自ら考えて学習言語を使いながら遂行します。
実生活に近い形でタスクを行うことで、より実感をもちながら語学を使用することになります。その場で話し合いながら進めていくため、どういう方向性になるかも全くわかりません。決まりきった表現だけを使っていては任務は遂行できないのです。
この際、文法や言い回しの事前指導はしません。
もちろん、必要であれば、先生が適宜アドバイスを行います。教師はタイミングよくサポートをすることが求められ、高度な指導力が求められます。
こういった「タスク」を設定して、文法にフォーカスしないで、タスクを達成することを目的とした授業を行うのが「タスク中心教授法」なのです。
教育改革:徹底的な教師の研修
ベルギー政府の教育改革は徹底的でした。
まず従来通りのやり方をとりやめ、教材から指導法までタスク中心主義にシフトしました。
改革のためには、まず教師を育てなければなりません。
そこで、教師への研修を徹底的に行いました。はじめは従来通りの指導法と違いすぎて戸惑う教師が多かったのですが、地道な研修の効果が現れ、最近になって大きく成果が出てくるようになったといいます。
莫大な予算を使って、教師たちの考え方から改革しようと取り組んだのです。
日本は英語教師の質を上げるべき
私自身、日本にいて子供の英語教育に関わりながら感じるのは、教師への研修や教育機会の少なさです。
教師への研修が少ないと、教師は体系的な教材を使って画一的な指導をする事になります。
教師の質を上げることができなければ、いくらいい教育方法があっても、実践に結びつけることは難しいでしょう。
ベルギーの教育法から、日本が見習うべきことは多くあります。
思い切った教師の考え方改革と教師へのたくさんの研修は、ぜひ日本でも取り入れていくべきではないでしょうか。